Angela Carterアンジェラ・カーターは、 サマセット・モーム賞受賞後、その賞金で日本での生活を体験し、日本文化や雰囲気を作品に反映している。1970年代における「ガイジン」としての日本での生活はカーターにとって新鮮であり、ラブホテルに興味を持ち、日本人男性と同棲し、さまざまな経験をする中で《愛と性》をカーター独特の感性でとらえ、それらをみごとに作品に取り込んだ。 イギリスの有名作家十人の中に数えられている奇才でありながら、その独特の作品手法によって、カーターの生き方は、多くのアラフォー世代の女性のみならず、男性にも大きな影響を与え、人間のもつ欲や愛、そして性の不可思議さを提示そ続けている。本書「花火」はまさしくその代表作だ。 |
最新情報 |
2010年8月25日 FIREWORKS翻訳「花火」出版 |
2010年10月23日 図書新聞「花火」書評 |
2010年10月24日 読売新聞「花火」書評 |
専門家解説 |
『タイムズ』紙にも指摘されているように、カーターは30以上の小説、戯曲や脚本、詩、評論やエッセイ、子供向けの本など幅広く執筆し、おとぎ話の翻訳や短篇小説や童話の編集なども手がけた。
彼女の最もよく読まれている作品は、「青ひげ」、「赤ずきん」、「美女と野獣」などのおとぎ話を独自の視点から書き換えた短編集『血染めの部屋』(1977)であろう。背中に羽根の生えた空中ブランコ乗りの女性を主人公とする奇想天外な冒険物語『夜ごとのサーカス』(1984)や双子の女優を主人公にした最後の長編小説『ワイズ・チルドレン』(1991)もよく読まれているようだ。急進的なフェミニストを自称するカーターには、男性の読者も多い。
カーターの実験小説のような作風や凝った文体は、決して読みやすいとは言えないが、何故彼女の作品は多くの人々を惹きつけるのだろうか。おとぎ話、ゴシック小説、SF,ポルノなどさまざまな要素をモザイクのように組み合わせて作り出された独自の世界。固定した概念や価値観、私たちが当たり前だと思い込んでいるものに疑問を投げかけるために用いられた、日常的な現実と幻想が交錯するマジック・リアリズムと呼ばれる手法。そして、ほとんどの作品で人間の根源的な問題である男女の性を扱っていることや、社会的に疎外され、差別されている者への温かい眼差しなども、読者を惹きつける彼女の魅力であろう。